石井ぜんじを右に

アーケードゲームファン必読の『石井ぜんじを右に! ~元ゲーメスト編集長コラム集~』

By asabat, 2015/02/02

今、ゲームセンターがどれだけなくなっているか。アーケードゲームというジャンルがどれだけ厳しいか、そんな話を、よく耳にしたり、見かけることが増えました。立地や営業形態、取り扱っているジャンルによって、実際の状況は異なっているとは思いますが、1980、1990年台に栄えたビデオゲーム中心のゲームセンターは、実際にかなり少なくなってきています。

1980、1990年代(もっと具体的に言うのであれば、ゲーメストが刊行されていた1986〜1999年)をアーケード(ビデオ)ゲームの黄金期とするならば、当時のゲームはいまや、レトロゲームと呼ばれる時代になりました。これらのレトロゲームは、プレミアがついていたりするものもあるものの、その多くは、ちょっとお金を出せば、今でもあのときのまま遊ぶことができます。家庭用ハードのダウンロード専用コンテンツとして配信されているものもあれば。レトロゲームをウリにしているゲームセンターにいけば、あのときのグラフィック、サウンド、操作性で体験できることもあるでしょう。
しかし、どのような環境で遊ぼうと、これらを遊んだときに僕たちが感じる印象は、あのときとは全く異なっています。若い方が、初めてこれらのレトロゲームに触れたときも、ある種の新鮮さがあるかもしれませんが、それもやはり、当時の環境や状況を伴わないものになるはずです。

やはりあの頃のゲームセンターは、環境が生んだ奇跡が多く潜んでいました。当時としては、当たり前のことだったり、ルールの整備が雑だったりするだけなのですが、いろいろな要素が集まって、特殊な環境が出来上がっていました。オンライン環境や携帯電話が普及していないことが、コミュニケーションの活性化を呼んでいました。攻略の普及が遅いことで、ただひたすらプレイして直感のようなものを磨いていきました。50円で遊べるところもあれば、20円で遊べるところもありました。空いている台に座って、友達のプレイを眺めながらしゃべっていました。でも、これらの環境を、いまの時代に呼び戻すことは不可能です。

そこで僕たちは、聞くこと、語ることを選んだりします。あの頃はよかった、こうだった、そんな話が何かを生み出すことは少ないですが、僕たちゲーマーにとって、楽しいものであることは確かです。聞くことですべてが伝わるわけではありませんが、ゲームを遊ぶだけだは伝わらないものもあるのです。当時を体験していなくても、現在も微かに残っているあの時代の空気とあわせて、そういった話を楽しむことができる方も多いのではないでしょうか。

前置きが長くなりました。今回紹介するのは、ゲーメストの編集長であった石井ぜんじさんのコラム集『石井ぜんじを右に! ~元ゲーメスト編集長コラム集~』です。 ゲーメストというと、当時、一番ゲームセンターに近かったゲームメディアで、その編集長であった石井さんが、現場の話、紹介や攻略スタンスの話、そして今のゲームに渡るまで、幅広く描いたコラムが詰め込まれています。

タイトルの”石井ぜんじを右に”というのは、ゲーメストの有名な誤植のひとつを元ネタにしているので、タイトルだけでやられてしまう人も多いでしょう。(手書き原稿には「ハンドルを右に」と書いていたものが、いざ記事になったら「インド人」を右にと表記されていたという伝説的な誤植です。)

本書で目を引いて面白いのは、ゲーメスト時代の現場のお話です。あの熱く、ユーモアに溢れて、時には同人誌のような尖ったアンバランスさを放っていたゲーメストは、どのように作られていたのかを垣間見ることができます。ゲームを扱う際のスタンス、個性的なライターたちのやりとり、ゲームセンターへのかかわり方など、当時のユニークな編集部の様子が、鮮明に描かれています。『ハイスコアガール』や『ウメハラ』といった人気漫画作品が、プレイヤーサイドからゲームセンターのノスタルジーを描いたものだとすると、こちらは、ゲームメディア寄りの視点から描いたものになっています。この視点で、当時を振り返ることができるのは、石井さんをおいてほかにはいません。

そして、特別収録されている、西谷亮氏(『ファイナルファイト』、『ストリートファイターⅡ』などの企画に関わったクリエイター。現在は株式会社アリカの代表取締役社長)との対談では、メーカーサイドの当時のお話も語られています。また、ゲーメストの版権キャラクターを手掛けていた漫画家の吉崎観音氏(『ケロロ軍曹』、『アーケードゲーマーふぶき』)や、最近ホットな押切蓮介氏(『ハイスコアガール』、『ピコピコ少年』)との対談も収録されていて、こちらもまた、当時の空気を違った角度から見られる読み物で、経験した時代が重なっているからこそ生まれる、深みのあるやりとりが随所にみられます。

こういったノスタルジックな話となると、若いゲーマーの方は敬遠してしまうかもしれません。この本のタイトルはもちろん、その中に登場するタイトルも、若い方にとっては、知らないものが多いかもしれません。それでも、本書は、読み手がゲーマーと自覚がある人であれば、退屈することなく、最後までページを進められるのではないかと思います。なぜなら、石井さん自身が、今でも現役のライターで、ただ当時を語るだけではよしとはしない人だからです。

石井さんは、今でも、新しいゲームジャンルに積極的です。『ボーダーブレイク』のプレイレポートをit-tellsで書かれていたりもします。僕自身、ファミ通Xbox360という、ある意味最先端かつニッチな雑誌で、3Dアクションゲームをプレイしたり、アドベンチャーゲームをプレイしたりする姿を直接見させていただきました。しかも、そのプレイが、ものすごく緻密で、短いレビューひとつ書くにも、何時間もプレイしていたりする。ゲームメディアのレビューをなかなか信じきれない僕ですが、ぜんじさんのレビューは、それからずっと、参考にさせてもらっています。

少し前の話ですが、『シュタインズ・ゲート』がXbox360で発売されて、本を作るという話になったことがありました。その本の企画書に、”世界線年表”というのが入っているのを見たときに、「これはあると嬉しいけど、作るのは大変だな。ぶっちゃけおれになったらやだな」みたいなことを思って、「ここは誰がやるんですか」と編集さんに恐る恐るきいたら、「ここは石井さんが趣味で年表を作ってるらしいから、それをベースにやる」という驚きの返事が返ってきました。 だいたい、こういう”表”なんていうのは「本を作るから、年表載せてあげたいよね。作ろうか」みたいなところから企画が立ち上がって、いざ実際に作り始めるとしんどい作業であることが多くて、若手のライターに丸投げしてしまうということも起こりうる代物なのに、石井さんはそれを「趣味で作っている」というんです。その趣味で作られた表は、緻密に作られていて、「これが趣味!?、仕事じゃなくて!?」と思ったくらいです。

年表とはいっても、この作品はタイムリープものなので、主人公が起こした行動の結果、未来が変化したといった要素を年表しなければならないので、複数の年表が絡み合う複雑なものになってきます。ほかにも、このゲームの評判をいろいろな方法でリサーチしていたりして、ホビージャパンから刊行された『科学アドベンチャーマニアクス』も、とてつもなく分厚い、濃厚な本になりました。プレイをして面白いと思ったら、分析したり、取り込もうとしたり、その中に飛び込んでいく。石井さんのバイタリティは、凄まじいです。面白くても、普通はそんなことしませんよ(笑)

本誌を読むと、そんなバイタリティは、ゲーメスト時代からのもので、だからこそ、編集長であったのだと再確認させてくれます。そんな石井さんの、ゲームの、懐かしい話、これからの話、思わぬ裏話などが、独特の切り口で、総ページ数350ページオーバー、大ボリュームで詰め込まれています。僕も、ゲームライターの端くれのようなことをやっていますが、本書の中に、今後のヒントのようなものを感じてしまっています。あの面白かった時代はもう完結したけれども、今後もきっと面白いことがあるのかもしれないとか、面白いことがあるとしたら、こうなっているのかもしれないとか。いろいろなヒントを拾い上げつつ読ませていただきました。その拾い上げ方や、イメージの膨らませ方は、人それぞれのものになるはずですが、素材は十分に、本書の中に詰まっています。

そして、この本の巻末には、石井さんが作成中の「20世紀アーケードゲーム総覧」。これは、まだ完全版ではないと謙遜して書かれているものの、90年台までにリリースされたアーケードゲームがずらりと並んだ見ごたえのあるものになっています。石井さんという人は、こういうことができるから、今でもオンリーワンのライターなんだと感じさせてくれるコーナーです。

ゲーメストを知るゲーマーなら当然、アーケードゲーマーなら是非、読んでみてほしい一冊です。

読み終えて、高まったままいろいろと書いてしまいました。誤字脱字があっても、ゲーメスト的愛嬌とお考えください。今週末は、未使用の新品を手に入れたセガサターンのファイティングスティック×2で『速攻生徒会』を遊んで、また懐かしい気分に浸りたいと思います。自分も、このゲームの開発にまじりたかった。(笑)